うちの息子は発達障害の可能性があると診断されています。将来のことが心配なのですが、発達障害の傾向によってはプログラミングが向いていると聞いたので、学校での授業に期待しているのですが・・・
結論から言うと、発達障害を抱えているお子さんの中には、プログラミングとの相性がとてもいいお子さんがいます。
また、プログラミング学習をとおして、発達障害の症状が改善されるケースもあります。
私も小学校に勤務をしているときに、発達障害のお子さんの担任をした経験があります。
でもその頃はまだ、プログラミング教育は始まっていなかったので、そのお子さんの将来のために生かすことは残念ながらできませんでした。
それから時が経ち、発達障害のお子さんを取り巻く環境もずいぶん変化してきたなと感じています。
この記事では、担任をしていたころの思いと、今の小学校の現状を踏まえながら、発達障害のお子さんを抱える保護者の方々の疑問にお答えできればと思っています。
私のプロフィールはこちらからどうぞ。
発達障害を抱える子どもたちとプログラミングとの相性
発達障害を抱える子どもたちと、プログラミングとの相性について考えてみます。
発達障害とプログラミングとの相性
ひとくちに発達障害といってもその特性は様々です。
そのなかでも、ASD(自閉症スペクトラム障がい)の一部であるアスペルガー症候群の特性は、プログラミングとの相性がいいといわれています。
その理由は次のとおりです。
● IQの高さ・記憶力や集中力の高さ
● 興味を持ったことへの強いこだわり
● 観察力・細部へのこだわり
私が担任をしていたとき、特別支援学級の子どもが定期的に私のクラスに来て交流していました。
そのお子さんは自閉症だったのですが、驚くほどの記憶力を持っていました。
電車についての知識は半端ではなく、他にあれほどの知識のある子どもと未だ出会ったことがないほどです。
ただ、やはり周りの子どもとのコミュニケーションはほとんどできず、いつも自分の世界の中にいるようなお子さんでした。
その頃は小学校でプログラミングを教える機会はなかったので、なんとも言えないのですが、もし、プログラミングに出会わせてあげられたら、きっとかなりの確率でのめり込んだのではと思います。
発達障害を抱える世界的な IT 企業家
著名な IT起業家のなかにも、発達障害を抱えている人たちがいます。
● マイクロソフト ビル・ゲイツ氏
● アップルコンピュータ スティーブ・ジョブズ氏
● フェイスブック マーク・ザッカーバーグ氏
天才と称されるこの3名とも発達障害を抱えているといわれています。
例えば、ビル・ゲイツ氏の幼少期の様子について少し書いてみたいと思います。
ビル・ゲイツ氏は幼少のころ、他の子どもと遊ぶことに関心がなく、一人遊びに熱中し、いたずらばかりしていたとのこと。
元教師だった母親は、決して強制せず本人の主体性を尊重した関わりを心がけたといいます。
小学校時代に得意だったのは算数で、ゲイツ家ではボードゲームやカードゲームで一家団らんのときを過ごすことを習慣にしていました。
コンピュータとの出会いは12歳のとき。
ビル・ゲイツ氏だけでなく、いずれも幼少期から知的能力には優れていましたが、対人関係が苦手であったり、衝動的な行動により協調性にかける一面があったとのことです。
シリコンバレー症候群
アメリカでは、アスペルガー症候群は「シリコンバレー症候群」とも呼ばれています。
シリコンバレーで働く人の中では、すでに約1割がアスペルガー症候群に該当するといわれています。
シリコンバレーという変化の激しい世界で、既存の概念にしばられず、独創的なものを創り出していく能力をもっているからこそ、彼らは生き残り、そして大きな成果を生み出しているのだと考えられます。
プログラミング教育で発達障害の症状が改善(論文紹介)
研究テーマ
「発達障害児を対象とした Viscuit によるプログラミング教育」
この研究は発達障害のある子どもたちに対して、通級指導教室においてプログラミングツールであるViscuitを用いて、プログラミング教育を実践するというものです。
<研究の結論>
● ASD児でコミュニケーションに困り感をもっているものの、知的能力が高い児童において、プログラミング教育は潜在的な能力を引き出し、伸長することに寄与している。
● コミュニケーションと協働作業能力が向上する。
研究の内容について簡潔に紹介したいと思います。
●研究の対象となっている児童の特性
ASD(自閉症スペクトラム障害)
ADHD(注意欠如・多動性障害)
LD(学習障害)
●実施内容
Viscuitの仕組みの理解と操作、ゲーム作りを10名の集団授業として実施
90分の授業を週1回の頻度で5回実施
●結果と考察
<全体的に>
「文字の変換」において全体として成績が向上
課題を遂行する手立ての質的な側面での向上
認知機能の向上
特に心的回転力(心の中に思い描いたイメージを回転変換する認知機能)の伸長が著しい
<個々の児童の変容>
自己コントロールが可能になった児童(ASD)
他児と一緒に遊ぶ楽しさを習得した児童(ASD)
<総合的な考察>
・プログラミング的思考の発達
ASD児でコミュニケーションに困り感をもっているものの、知的能力が高い児童において、プログラミング教育は潜在的な能力を引き出し、伸長することに寄与している。
・自立活動におけるコミュニケーションの育成
コミュニケーションと協働作業能力が向上する結果が得られた。
引用文献
岡田克己・大山美香・井上愉可里・渡辺勇士・原田康徳・成田泉・水内豊和
富山大学人間発達科学部紀要第13巻第2号:37-44(2020)
「発達障害児を対象とした Viscuit によるプログラミング教育」
学校現場では、特別支援学級の授業の様子などもよく見る機会があったのですが、プログラミング学習の場の持ち方や、授業の進め方を工夫することで、この研究結果にあるように子どもたちの能力を伸ばすことは十分に可能だなと感じます。
小学校におけるプログラミング教育の現状
「2020年度から小学校でプログラミング学習必修化」という言葉は耳にしているかと思います。
また、実際に小学校で子どもたちのプログラミング学習に携わっている先生方も多いこと思います。
それでは、一般的な公立の小学校においては、どのようなプログラミング教育が行われているのでしょうか?
私の経験や身近にいる小学校の先生方からの話を元にその様子をお伝えします。
小学校にけるプログラミング教育
結論からいうと
小学校におけるプログラミング教育はまだまだこれから
という状況です。
プログラミングが必修化されたはずなのにまだスタートしてないの? と思われることでしょう。
では、現状についてお話しましょう。
まず、必修化されたといっても「プログラミング」という教科ができたわけでも、「プログラミング」という教科書があるわけではありません。
また、時間割のなかに「プログラミング」という時間があるわけでもないのです。
それでは、プログラミング教育は一体どのようにして行われるのでしょうか?
文部科学省が示している学習指導要領のなかでは、その学習場面を大きく6つに分けて例示しています。(文部科学省の説明資料はこちら)
ここでは細かい説明は割愛させていただきますが、今までの経緯を考えると「総合的な学習」の時間に適切な課題を設定して、プログラミングを体験することがまずは考えられます。
そして、その体験をベースにして、例えば小5の算数で正多角形の学習場面で、正多角形の作図をプログラミングによって行うなどの活動が実施されていきます。
ただ、全国の各自治体の設備の状況や、先生方のスキルなどを考慮すると、全国の子どもたちが同じレベルのプログラミング教育を受けられるようになるまでには、まだまだ時間がかかると考えられます。
発達障害を持つ子どもたちにとってとても有益な学習なので、早く環境整備が進んで、困り感を持つ子どもたちにプログラミング教育が生かされることが必要ですね。
そこで、これからの環境整備についてですが、プログラミング教育を含め情報教育を積極的に進めていくために、国では「GIGAスクール構想」という計画を進めています。
これは、予算面でもノウハウ面でも各自治体を強力にバックアプしながら進めているもので、学校の ICT環境向上に大きく結びつくのではないかと期待しています。
また、コロナウィルスの影響でオンライン授業の有効性などにも注目が集まっているので、環境面ではプログラミング学習にとってプラスに働くこととが期待できますね。
小学校における発達障害を抱える子どもたちへのプログラミング教育の機会
この記事で紹介した富山大学の研究では、発達障害を抱えた子どもたちが通う通級指導教室において、プログラミング教育が行われていました。
このような場面でプログラミング教育が行われているケースは、まだまだ限られているのではないかと推測されます。
だからこそ研究の対象になっているのだと考えられます。
実際に私が勤務していた自治体では、発達障害を抱える子どもたちのために特別に用意されたプログラミング教育の機会というものはまだありませんでした。
ただ、先ほどの研究の成果にもあったように、プログラミングが発達障害を抱える子どもたちのためにも有効なことがわかってきています。
そして、世界的な事例からも将来の活躍の場として、子どもたちが大きく夢をいだけるような場所であることから、発達障害を抱える子どもたちへのプログラミング教育というものにもスポットライトを当てていくことが今後はさらに大切なことだと感じます。
学校以外に子どもたちがプログラミングを学ぶ機会
子どもたちに学校以外の場所でプログラミングを学ばせたいと思ったとき、どのような機会があるのでしょうか?
いくつか具体的な例をあげながらお話したいと思います。
家庭でできる取り組み
Webサイトで学ぶ(無料)
インターネット上には無料でプログラミングを学べる仕組みがたくさんあります。
小学校でも使っているビジュアルプログラミング言語と呼ばれる Scratch(スクラッチ) や Viscuit(ビスケット) は、タブレットやパソコンとインターネット環境があれば、十分に学習することができます。
プログラミングおもちゃやロボットで学ぶ
知育玩具のなかでも、プログラミングで自分の思ったようにコントロールできるおもちゃやロボットがあります。
幼児用のものから、本格的にロボットプログラミングを学べるものまで様々です。
比較的高価なのがデメリットではありますが、普通のおもちゃに比べて学習効果が高いので、子どもの特性によっては、有効な学習手段ではあります。
オンラインスクールで学ぶ(無料の講座もあります)
有料のオンラインスクールを利用して、家庭でも本格的にプログラミングを学習することができます。
例えば
D-SCHOOL
Udemy(一部無料)
通信教育で学ぶ(有料)
Z会などのように毎月自宅に届く教材にしたがって学習を進めていくタイプです。
カリキュラムがしっかりと作られているので、慣れてくると子どもだけでも学習を進められるので、忙しい保護者の方には向いています。
Z会プログラミング講座
プログラミング教室に通う(無料体験あり)
子ども向けのプログラミング教室は、年々人気が高まり全国に多くの教室が開かれています。
発達障がいのお子さんのことを考えたとき、私が特におすすめしたい教室があります。
それは、「LITALICOワンダー」というプログラミング教室です。
その理由ですが、「LITALICOワンダー」というプログラミング教室の運営母体である「LITALICO」は「LITALICOジュニア」というソーシャルスキル・学習教室を運営していているという点です。
そして、この教室では、自閉症、ダウン症、LD、ADHD、広汎性発達障害の子どもたちが安心して通えるように専門性のある講師が、一人ひとりの子どもの特性に合わせて指導を行っているのです。
このLITALICOワンダーについては、こちらの記事に詳しくまとめてあるので、ぜひ、ごらんください。
じゃあどうする? まとめ
うちの息子は発達障害の可能性があると診断されています。将来のことが心配なのですが、発達障害の傾向によってはプログラミングが向いていると聞いたので、学校での授業に期待しているのですが・・・
というお悩みをいただき
じゃあどうする?
と考えてみました。
ひとくちに発達障害といっても、その特性は様々です。
今回は、プログラミングとの相性を中心に考えたので、アスペルガー症候群についての話題が中心となっていますが、どんな特性であれ、きっと働きやすい仕事や生きやすい環境があるはずです。
これからもそういった切り口を大切にしていきたいと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
子どもの将来を思い悩んでいるとき、この本が勇気をくれました。
コメント