文部科学大臣の記者会見で「幼児教育スタートプラン」という言葉がでてきました。
メディアでも取り上げられたりしていますが、どんなものなのか?
萩生田大臣の記者会見での言葉に加え、経済財政諮問会議での資料などを元に、できるだけ簡潔に説明してみました。
「幼児教育スタートプラン」とは?幼児教育の義務化なのか?
「幼児教育スタートプラン(仮称)」のイメージは、上に示したとおりなのですが、文部科学大臣の言葉から抜き取ると、つぎの部分が軸となっていくように思います。
” 全5歳児の生活・学習基盤を保障する幼保小の架け橋プログラムの推進等の幼児 期からの学びの基盤づくりを進めていく ”
引用元:財政諮問会議(令和3年5月14日)議事要旨
これは、上のイメージの中心の部分「幼保小の架け橋プログラム」の一番目の項目です。
さらに、記者会見での大臣の言葉としては
” 5歳の1年間は、小学校に上がる前段階として、同じ学びをしていただくことがこれからの義務教育に必要 ”
引用元:萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和3年5月25日)
要するに、幼稚園、保育所、認可こども園など、幼児教育の種類を問わず、5歳児には文科省として同じ教育を受けてもらうというとになると思います。
決して幼児教育の義務化というわけではないのですが、5歳児に一律の教育を受けさせたいという思いは伝わってきますね。
なぜ「幼児教育スタートプラン」が必要なのか
なぜ、このようなプランが必要なのでしょうか?
結論からいうと
現状の幼児教育においては、小学校の入学前にすでに格差が生じてしまっている
ということなのではないでしょうか。
Society5.0 時代を生きていく子どもたちに必要な能力を育むために、小中学校における1人1台端末の整備を進め、コロナの影響もあり、前倒しでその計画が進められました。
その結果、小学校1年生でも一人一台のパソコンやタブレットを持ちながら、授業を受けることが可能になっています。
また、小学校では、2020年度からプログラミング学習も始まっています。
そのような小学校の現状に対し、幼児教育の方はどうでしょう。
幼児教育は元々、文部科学省の管轄にある幼稚園、厚生労働省の管轄にある保育所、そして、内閣府の管轄にある認定子ども園などさまざまです。
無認可の保育所などを含めると小学校に入るまでの幼児教育には、かなり大きな違いが生じている可能性は否定できないと考えます。
その違いをできるだけなくし、小学校に入学したときの子どもたちのレベルをできるだけ揃えたいというのが本音ではないでしょうか。
もちろん、そうした格差を小さくしていくことは大切なことです。
<コラム 室長より>
小学校1年生の担任は3回(日本で2回、海外で1回)ほど経験があるのですが、入学したばかりの子どもたちの様子にはかなりのばらつきがあるのは確かです。
ばらつきというのは、性格的なものではなくて、勉強の面においてのことが中心です。
ひらがなの学習は本当は1年生になってから初めて学習するのですが、入学したときに全部書ける子どもから、全く書けない子どもまで、さまざまでした。
もちろん幼稚園、保育所、認定こども園の違いもあるし、家庭の教育力の違いもあると思います。
ここに最近ではITスキルが加わってきているので、その格差は大きくなるばかりだなとも感じています。
「幼児教育スタートプラン」を実施する際の課題
「幼児教育スタートプラン」を実施する際の課題について学校現場から見えることを、2つほどお話ししたいと思います。
①管轄省庁の相違
②指導者の資格の相違
①管轄省庁の相違
幼児教育が行われている幼稚園、保育所、認定こども園は、それぞれ管轄の省庁が違い、違った指針に基づく運営がなされています。
したがって、5歳児が実際に受けている教育は施設によって違ったものとなっています。
それぞれの違いについてここでは具体的には述べませんが、以下のような違いがあります。
<幼稚園>
文部科学省の管轄
学校としての位置付け
幼稚園教育要領に基づく教育
<保育所>
厚生労働省の管轄
福祉施設としての位置付け
保育所保育指針による保育
<認定こども園>
内閣府の管轄
幼保連携型認定こども園
教育・保育要領に基づく教育
参考
『保育所保育指針 幼稚園教育要領 幼保連携型認定こども園教育・保育要領』保育福祉小六法2017年版付録 株式会社みらい
②指導者の資格の相違
幼稚園、保育所、認定こども園では、働いている職員の免許や資格に違いがあります。
そのため、5歳児に一律の教育を求められた場合、新たな研修等によって、教育方法や教育内容をしっかりと身につけていくことなどが求められるでしょう。
現状では、指導者としての資格は次のようになっています。
<幼稚園>
幼稚園教諭免許状(国家資格)を取得しておく必要があります。
種類は専修免許、一種免許、二種免許の3種類
対象は3〜6歳児教職員免許法による教員免許で有効期限あり
<保育所>
保育士資格児童福祉法で定められた国家資格の一種で有効期限はない
対象は0歳児〜
<認定こども園>
基本的には、幼稚園教諭の資格と保育士の資格が必要
必要な免許や資格は、施設によって異なります。
幼保小の教育の現状はどうなっているの?
幼児教育から小学校教育へのつながりについては、ずっと以前から課題とされていて、それなりの手立ても講じられてきてはいます。
実際にどんな取り組みがなされてきているのか、代表的なものをご紹介したいと思います。
①「スタートカリキュラム」について
② 幼保小の連携について
③「教育振興基本計画」について
①「スタートカリキュラム」について
”「スタートカリキュラム」とは(引用)小学校へ入学した子供が、幼稚園・保育所・認定こども園などの遊びや生活を通した学びと育ちを基礎として、主体的に自己を発揮し、新しい学校生活を創り出していくためのカリキュラムです。”
引用元:『スタートカリキュラム スタートブック』
ということで、幼児教育と小学校教育をつなぐ役割をはたすのですが、このカリキュラムを作成するのは小学校であり、子どもたちにとっては、小学校に入学してからのこととなる点が、スタートプランと大きく違うところですね。
②幼稚園・保育園・小学校の連携について
幼稚園、保育園、小学校の連携、いわゆる「幼保小の連携」の必要性については、ずいぶん前から言われていることで、各自自体において、連携を推進するための取り組みがさまざまなされてきています。
ただ、連携を進めるとはいえ、今回のように5歳児に義務教育の前段階の教育を施すというような取り組みではありません。
③「教育振興基本計画」について
”教育振興基本計画は、教育基本法(平成18年法律第120号)に示された理念の実現と、我が国の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るため、同法第17条第1項に基づき政府として策定する計画です。”
引用元:文科省HP
現在は平成30年に閣議決定された「第3期教育振興基本計画」のもと、各教育政策が実行されています。
各自治体は国の教育振興基本計画に基づき、各自自体の教育振興基本計画を策定し、各自治体ごとの教育施策を実行しています。
したがって、国の教育振興基本計画に示された方針や施策等は、なんらかの形で各自治体の教育施策に反映されていくこととなります。
この教育振興基本計画の中で、幼児教育の課題がどのように示されているのか少しみてみたいと思います。
Ⅱ.教育をめぐる現状と課題
幼児の発育に関しては,社会状況の変化等による幼児の生活体験の不足等から,基本的な技能等が十分に身に付いていないという課題が指摘されている。また,近年,国際的な研究成果などから幼児教育の重要性への認識が高まっている。”
引用元:教育振興基本計画P8
こうした課題認識も、今回の文部科学大臣の発言などに現れているものと考えられます。
じゃあどうする? まとめ
今回は、萩生田文部科学大臣の記者会見での発言にあった「幼児教育スタートプラン(仮称)」について、まとめてみました。
まだ、仮称の段階ということで、この先の状況は未定ではありますが、子ども庁の新設など、幼児教育への関心が高まっていることは事実です。
現在は管轄がいろいとあることが、幼児教育の多様化につながっている部分もあるのではないでしょうか。
ある部分の学習内容が統一されることがきっかけとなって、そうした幼児教育の多様化が失われてしまわないように願いたいものですね。
参考
・幼小接続期の育ち・学びと幼児教育の質に関する研究<報告書>国立教育政策研究所 渡邉恵子
・『スタートカリキュラムスタートブック』文部科学省 国立教育政策研究所
・【幼児教育の質の向上に関する論点例】幼児教育の内容・方法の改善・充実 文部科学省
・『発達や学びをつなぐ スタートカリキュラム』文部科学省 国立教育政策研究所
・『新たな時代を担う人材育成と 研究力の強化について 令和3年5月14日 萩生田臨時議員提出資料』文部科学省
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